薬を飲むのにお湯?HSKの問題の理解に必要な背景知識

2015年にHSK(汉语水平考试)の新しい大綱が出た。従来からある“语言点大纲”“词汇表”に加えて、最初の大綱にはなかった“话题大纲”、“任务大纲”が付け加わっている。また“样题”も差し替えられている。

孔子学院总部/国家汉办≪HSK考试大纲 二级≫(人民教育出版社、2015年)に掲載されている問題例を見ていたら、音声の内容と合致する写真を選ぶ問題で、「どうしてまだ薬を飲んでいないの?」といった音声に対して、掌の上に薬のカプセルを載せている写真を選ぶものがあった。ポイントとなる“吃药”という動詞+目的語の組み合わせがわかっていればおそらく解ける問題だと思う。
ただ、それ以外に日本で育った日本語母語話者には理解しにくい表現ある。文字面の意味はたいして難しいわけではない。“水太热了”。まず中国語の“水”はH20の液体全般を指す、温度に関わらず“水”ということが可能だという点だ。特にお湯と言いたければ、“热水”(熱い水)と言うか、“开水”(沸騰させた水)と言う。それでもなお理解しにくいのは、なぜ薬を飲むのにわざわざお湯?という点だ。中国では一般に生水を飲むことを避け、一旦沸かしたお湯を飲むという生活習慣に関する知識がないと理解しにくい。
また、“××元1斤”といった表現もHSKの問題に時々出てくるのだが、量り売りで物を買った経験がない学生さんには理解しにくいようだ。それだけでなく、量り売りの基準単位が“1斤”(500グラム)という伝統的な重量単位が使われているという知識も必要だ。日本でも量り売りはあるのだが、基準単位はたいてい100グラムだ。

いつのHSKの問題か忘れたが、音声の内容と一致する写真を選ぶ問題で、正解として“老师”の写真を選ぶものがあった。正解の写真はスーツを着た若い女性の前に地球儀が置かれているものだった。黒板の前でチョークを持っている写真ならわかりやすいのだが。この問題の場合、音声の内容がわかっていれば、消去法で一番それらしい写真ということで正解は出せたのだが、なぜ地球儀?と感じたので、知り合いの中国人教員に尋ねると、地球儀とスーツの女性で教員のイメージだということに特に疑問は感じないと言う。言語と文化や生活習慣は分かちがたい。

これもいつの問題だったか忘れたが、HSKの読解問題で、空港に来るのが遅くて、チェックイン時間がすでに過ぎていて予約した飛行機に乗れないというシーンがあった。担当した学生さんの実力からして文の字面の意味はわかっているのだが、この文章全体が何を言っているのかよく理解できないようであった。飛行機に乗るには予約してチケットを買っただけではダメで、搭乗までには、チェックインしてボーディングパスをもらう→安全検査を通るという一連の手続きが必要なので、飛行機のチェックインは搭乗時刻のだいぶ前に〆切になるという知識がなかったのかもしれない。これは特定の文化に依拠する知識ではなく、現代社会のシステムに関する知識、言語の学習は総力戦だ。