Q:中国語に敬語はあるのですか?
A:この問題については以下の文章が参考になります。
相原茂編著『中国語学習ハンドブック 改訂版』大修館書店 1996年
第III部第2章8「敬語」
『小学館日中辞典 第2版』小学館 2002年 p562〜563「敬語表現」
相原茂・木村英樹・杉村博文・中川正之『新版 中国語入門Q&A』大修館書店 2003年
p20「敬語はありますか?」p82「女子大生のわたしをオバサンとは!」
相原茂・木村英樹・杉村博文・中川正之『中国語学習Q&A』大修館書店 1991年
p14「先生を"他"(かれ)と呼んでもいいですか」
上記の文章を参考にしつつ、私の経験や意見も加えてまとめてみましょう。
日本語では「食べる」の尊敬語は「召し上がる」謙譲語は「いただく」丁寧語は「食べます」といった一連の言い方がありますが、中国語には日本語や韓国語・朝鮮語のような体系的な敬語はないと言われます。しかし、敬意やていねいさを表す表現が存在しないというわけではありません。例えば、二人称は"你"を使うより"您"を使う方がていねいです。
1.呼称は重要。
日本に長くいる中国人の友人が「日本語の〜さんや〜様は便利です。」と言っていました。その友人が言いたかったのは、とりあえず「〜さん」「〜様」と言っておけばすむような広く使える敬称が中国語にはないということだと思います。中国語では相手をどう呼ぶかということが相手と自分の関係を如実に表すものであり、呼称は敬意を表す重要な方法なのです。
私が経験した例では、私がまだ20歳代の頃のことですが、中国のバスで幼い子供連れのお母さんに席を譲ってあげたことがあります。子供は私に"姐姐,谢谢!"(お姉ちゃん、ありがとう)と言いましたが、母親は慌てて子供の耳元で"阿姨"(おばちゃん)と何度もささやいていました。子供が私のことを「姐姐(お姉ちゃん)」と呼んだので、「阿姨(おばちゃん)」と言い直させようとしていたのです。中国の呼称では世代の概念が働いています。子供が私を「姐姐(お姉ちゃん)」と呼べば、子供と同じ世代ということになってしまいます。「阿姨(おばちゃん)」と呼ぶと、子供にとって母親と同じ世代ということになり、敬意をはらっていることになるのです。この話は上に上げた参考文献で知識として知っていましたが、自分で体験して「なるほど本当にそうなんだ。」と思いました。ちなみに男性であれば、"叔叔"(おじちゃん)と呼ばれることになります。
2."请"を付けてていねいに。
"请"は頼むという意味の動詞で、"请"+(你)+動詞フレーズで「〜して下さい」という表現ができます。
例えば、"你等一下。"(ちょっと待って)より、"请您稍等一下。"(少々お待ち下さい。)の方がていねいな言い方です。
3.可能や許可を表す助動詞を使った疑問文でお願いする。
"能"や"可以"といった可能(〜できる)や許可(〜してもよい)を表す助動詞を疑問文で使って、お願いする表現があります。
你能不能帮我一下?(ちょっと助けてもらえませんか。)
我可不可以打扰您一下?(ちょっとお邪魔してもよろしいでしょうか。)
この場合は相手にそういう能力があるのかと尋ねているのではなく、相手がそういうことをしてもよいと思っているかどうかを尋ねるという形で、実質的には相手に対してお願いをしています。また、疑問文で聞いていますので、相手にはNo!と言う選択肢があることにもなり、ていねいな言い方です。
4.使役文を使ってへりくだる。
"让"という使役(AはBに〜させる)を表す動詞があり、"让"+"我"+動詞フレーズで、「私に〜させてください。」という表現ができます。
让我介绍一下。(ちょっと紹介させて下さい。)
相手を使役の主語にすることによって、相手に主導権を与えている=こちらがへりくだっているということになります。